むかし、おとこ 春日野の 若紫のすりごろも しのぶの乱れ 限り知られず
春日野の若い紫草のように美しい貴方達、ぼくの気持は此の紫のしのぶずりの衣のように、 みちのくの しのぶもじずりだれゆえに 乱れ染めにし われならなくに
これは御存じ小倉百人一首の源 |
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図1 モスリン友禅 田村駒資料室 |
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この歌は先に述べた様に古今和歌集にも収録されているが、それが撰進されたのは延喜五年で、 載されている。色目として64の色名が上げられているが、その中に蓁摺、紫摺、黄色摺が含ま れており、染法は赤、黄、紫、緑、縹(青)等の他に、雑染として摺り染めの事が記されている[i] 織物の上に多色の文様を表現するには、糸を染色して織柄として表現する、色糸を使って刺繍をする、 日本の文様染を語る時、「摺り」と言う語について、語らなくてはならない。 前回彩絵と摺文について少し触れたが、摺文についてもう一度触れる。 摺文は版木の表面に顔料や染料を塗り、その上に布を静かに置いて、「ばれん」のような物で均等に布の 中国には、古くから拓本の技術が伝承されている。此れは印刷技術の一つであるが、石碑から文字や絵 印は朱肉を付けて捺印する。これらは早くから日本に伝えられたが、文様染に直接応用されることはなか |
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図2 型染 丹波木綿 萩原蔵 | 図3 型染 丹波木綿 萩原蔵 | ||
図4 型染 丹波木綿 萩原蔵 | 図5 型染 丹波木綿 萩原蔵 | ||
話が少し横道へそれるが、今回日本の捺染について、その辿ってきた道を、確かめてみたくて筆を執っ 此の他に、同じ事を表す字に刷と印と摺とがある。中国では印の字を用い、捺染のことを印花 世界のブロックプリントが捺であるのに対し、独り我が国だけが摺であった。そしてこの技術が、文様 日本と同じように、摺りによって文様染をする人たちがオセアニアの島々に居る[iii]。 |
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図6 原始不織布 タパ 萩原蔵 | 図7 原始不織布 タパ 萩原蔵 | ||